2017-05

リレー7

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--もうそろそろか…


少し見せるように、自分の時計を目線まで引き上げた。
パテックフィリップを「あえて」つけているという設定にしている。
ロレックスではわざとらしい。
男の持っている時計はそれ一つだけだ。
それも、今待っている女からの貰い物だった。



逆の手は一連の作業を、何も考えずに繰り返す。
暇つぶしにはじめて打った機種だから、時計を愛でながら適当に打つぐらいがちょうどよかった。
強チェリーをひいて間もないうちに、子役外れのリーチ目が来た。
よくわからないキャラクターがごちゃごちゃやっているうちに、サイドランプがパッと光った。
「また当たっちまったよ」
男はため息をつきながら7を揃えた。




しょうもない遊びと、女に冷たくするタイミングの才能だけで、大抵のことはどうにかなるように世の中はできていた。
両方を持ち合わせている自分は、学生のころから大衆に祝ってもらいながら暮らす人生を諦めた。



もうすぐ女が戻ってくる。
話題の占いがどうたらこうたらと話していた。
割と有名らしいどこかの市議会の議長が女に紹介したそうだ。
女は悪びれもせず俺に伝えて、付き添いを頼んできた。
人付きあいの筋が通っていないという顔が、俺は上手く隠れているらしい。
さっき言った才能っていうのは、多分そういうことだ。



3000枚を超えたところであがりやめて、清算しているところに女が戻ってきた。
明らかに機嫌が悪かった。
車のキーをポケットから探りながら、駐車場へ促した。


---


「ねぇ、ひどくない?そんなところまで見ることないじゃん」
口紅をひこうとした手鏡を思い出すように膝において、女は俺にがなった。
「昔のこと、全部思い出しちゃった。ほんっと最低。あんなクソじじいのこと今更口に出すなんて。思わない?」
それを了承して見てもらったんじゃないのか。とは言わない。
女と言い合う気がないという以前に、全く興味が湧かないから。




「でも確かにさ、私が中学出てすぐ家飛び出してこんな仕事やって、って流れもさ。元はと言えばそいつがきっかけなのかもしれないんだ。占いで見てもらったのはそのジジイ―父親の兄貴なんだけどさ―が、私が小さい時に滑り台で降りてきたところを抱き上げてるシーンだったんだけど、それって絶対ジジイが私のこといやらしい目で見てたこと表してると思うんだよね。その人もなんとなくわかってるみたいで、すごく気まずそうにしてて。そこから、私の服が入ってる箪笥を開けてるところとか全部フラッシュバックしちゃって…」




涙声になっている女を見て、こうまでいろいろ考えさせるんなら占いっていうのも満更無駄でもないんだな。と思った。
自分は死んでも見てもらいたくないけど。




「私は、あんなジジイにひっかからないために生きてるの。だから、私を守ってくれる人だけを大事にする。…ねえ、わかってる?」
女は俺の腕に指をのせた。


―くだらねぇな。
と思った。


本当にくだらない。


なんだか、占ってくれている男が可哀そうになってきた。
実際どうやって占ってるのかわからないけど、少なくともこの女は何一つ男の占いを活かしていない。



「悪い、今日は寄るとこがあるんだ。」


さっさと女を降ろして、時計を外して、そこらへんの寂れたパチンコで適当に回した。
こんな時は出ないんだよな。と思っていると、すぐにあたりをひいた。



--ペースが狂うな。


やっぱり、占いなんか中途半端に見てもらわないほうがいいと思った。
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「不安の種+」




「不安の種+」


 学校の怪談。妖怪。UMA。都市伝説。
 私はこういった未知のものにとても興味がそそられます。


 本当に実在するのか、しないのかよくわからないもの。また、実在していてもまだ読み解かれていないもの。
 例えば、宇宙の果て。脳。人体。神。宗教。並行世界。タイムスリップ。大統一理論。虫の生態。人類の進化の過程。世界の成り立ち。人間そのもの。時間。私。こころ。


 答えのでないものを追い求める時に、私の中のアドレナリンが列をなして溢れ出してきます。
 最近では記憶を人工的に消去する技術があるというのを知り、テンションが上がってしまいました。サイエンス・フィクションの世界が、着実にただのサイエンスになろうとしています。


 そういう風潮のせいか、最近もメディアでは夏のホラー特番などが減ってきています。
 私にとっては残念なことです。


 そうすると、漫画や小説、映画・ゲームのホラーに手を出していくのが必然になってきます。


 今回はそんな中の一冊。「不安の種+」を紹介します。
 いつもは小説の紹介なのですが、ちょっと趣向を変えて漫画を紹介します。


 作者の中山昌亮が、各地の人から聞いた噂話を元に一話10ページもない話を展開していきます。一話一話で話が完結しています。


 短くて、インパクトがあります。そして、圧倒的に情報不足な内容になっています。
 はじめか最後に、地名だけがだされ、10ページの中で不可思議な現象に出会うのはたった1ページだったりするわけです。


 確かに不可思議な現象、不可思議なモノと出会ったことが描写されているのに、それに対する説明は一切ない。完全に全てを読者へと投げてしまっています。この分からなさが絶妙に怖さを演出しています。


 読んだ時もゾクっとなるし、その後数日経って、現実で同じようなシチュエーションに出会うと、路地裏にそいつがいそうな予感がしてまた、ソクっとする。
 そのうちに、自分の本の一つ位相がずれた世界には、こんなものがわんさかといるんじゃないかと思って、自分で怖さを次から次へと増していってしまう。


 短い話なので、あんまり数は上げられませんが、どんな内容があるのかというと。


 男は乳母車を押す女の人が歩いている。女はふと立ち止まると隣のマンションを見て、ぐっと首が伸び、マンションの2階を見る。男は逃げようと振り返るが、電柱で顔をぶつけ、その音で気づかれてしまう。


 こんな話とか。


 怖がりの男は、トイレのドアを開けて何が起きても逃げ出せるように用を足す習慣があった。しかし、男は後悔する。今目の前に、よくわからない足がドアの向こうに立っている。


 そんな不可思議な恐怖がこの漫画には詰まっています。
 映画化もされましたが、原作の恐怖感を描き切ることはできていませんでした。


 是非読んでみてください。トイレに行けなくなります。



リレー6



 半日ほどほとんど休みなく、ピアノを弾き続けた。僕のピアノは自分の内から生じる衝動のようなものを放出する作業だ。脳も酷使した指と足と同じくらいに痺れている。
 帰り際、奈々未さんが新しい仕事を一件持ってきてくれた。少しずつ自分が認知されていることが嬉しい。



 帰宅までの足取りは重い。駅まで自転車で来ていればよかったと半ば後悔したが、自分の家まで歩いて帰るのも仕事の一つだと割り切ることにした。頭を空にして景色と音と空気を感じる。鼻孔をくすぐる香りを探してもみる。こうした小さな出会いが僕の音楽を作っていく材料になる。



「ただいま」
「おかえりなさい」

 奥からかすかに優子さんの声が聞こえた。返事をくれるということは今日の分の仕事は終わっているのだろう。




 荷物を自室に置いて、リビングに向かう。
 ジーンズに白シャツというセンスも何もない適当な恰好でワインを飲みながら海外ドラマを鑑賞していた。死者の骨からの声を聴くことができる女の人が出てくるもののようだ。タイミングが良かったのか、エンディングが流れ始めたところだった。優子さんはチャンネルを操作して僕の方を向いた。



「今日の仕事はどうだったの?」

 グラスに新しい薄い黄色の液体を注ぎ足す。



「いつもの通りです。可もなく不可もなく、僕は僕の全力で演奏してきました」

「そう、それならよかった」



「優子さんは、仕事終わったんですよね。今日は何を書かれたんですか?」

 僕は自分もワインを頂こうとグラスを出しながら訊ねる。




「前、インタビューしてきたものを一本纏めてお仕舞い。本当は、今流行りの過去視ができるとかなんとか言ってる人のインタビューの日取りをなんとか取り付けてやるつもりだったんだけど、相手方が頑固でね。予約が優先ですとかなんとか、記事にしてあげればもっとお客さんも増えるんだから、ちょっとは考えればいいのに」

 朝読んだニュースのトピックを思い出した。過去視が云々というのは、その占いのことなのだろう。過去を見ることと占いとどういう関係があるのかわからなかった。



「拓翔くんに愚痴っても仕方ないね。ほら、注ぐからそっち座って」

 言われるままに向かいのソファに座って、ワインを頂いた。緩い時間が過ぎる。酔いが回ってくると、魔が差すみたいに少し考えてしまう。
 僕と優子さんは、親子に見えるだろうかと。



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Author:逆志乃 機里
逆志乃機里、タンパクが各々好き勝手に織り成す、それなり小説集。
更新日は、火曜と金曜。

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